Vol.25 No.5
【特 集】 水産増養殖の新技術


不定胚を用いたホンダワラ類の人工種苗生産
(独)水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所    吉田 吾郎
 大型褐藻ホンダワラ類による藻場(ガラモ場)の造成においたは、移植用種苗の効率的な確保が課題の1つとされている。 ホンダワラ類の種苗生産は、有性生殖の結果得られる幼胚を採集することに依存しており、季節的に限定されるなど、 その利便性は低い。

 ホンダワラ類の主要種であるノコギリモクの培養過程において、その発生初期の葉(茎葉)上に多数の不定胚が形成され、 発芽することが初めて観察された。不定胚由来の種苗の成長過程は、幼胚由来の種苗と同様であり、 培養1年後に全長1m程度の成熟藻体となった。本稿では、不定胚の活用によるホンダワラ類の人工種苗生産の可能性について述べる。
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異型接合型糸状体を利用した養殖ノリの新しい品種改良
兵庫県立農林水産技術総合センター 水産技術センター    二羽 恭介
 ノリ養殖の現場では、さまざまに変化する養殖環境で安定した生産を持続させるため、 通常複数系統の糸状体から殻胞子を放出させて採苗を行っている。しかし、そのためには各糸状体の成熟時期を厳密に調整する必要があるため、 必ずしもノリ生産者の思うように採苗できていないのが現状である。今回、本県が開発した異型接合型糸状体(雑種糸状体)では、 殻胞子を放出させるだけで少なくとも8種類以上の遺伝子型をもった葉状体が同時に生じることが推定された。 このことから、複数系統の糸状体を用いて採苗を行っている現在のノリ養殖において、 異型接合型糸状体の利用は養殖ノリの新たな品種改良につながる可能性をもつものと考えられる。
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耐病性アコヤガイの作出
愛媛県水産試験場    内村 祐之
 本研究ではアコヤガイの病状に着目し、死ににくい日本貝を作出した。感染症の症状として血球崩壊が観察され、 とくに初夏から秋にかけてほとんどすべての貝で血球が著しく崩壊した。 血球崩壊の著しい時期にDNAのラジカル損傷と過酸化脂質を含む細胞毒が検出されたことから、血球崩壊の少ない貝を選抜して親貝に使用することで、 死ににくいアコヤガイ生産が可能となった。
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クロアワビ筋萎縮症の防除技術の確立
京都府立海洋センター    中津川 俊雄
 1970年代終わり頃から、原因不明の大量死がクロアワビの種苗生産・中間育成の過程において、主に5月〜7月の水温上昇期に発生するようになり、 西日本を中心とした発生府県での稚貝の平均死亡率は約50%(最高約95%)にも達していた。 著者は、この大量死が濾過性病原体による伝染病であることを明らかにし、筋萎縮症と名付け、本症の感染経路の解明、 原因体の不活性法など、その防除方法について研究を進めてきた。現在までに、その防除技術研究の大半を終えている。 1999年秋以降、京都府栽培漁業センターではこれらの研究成果を踏まえた種苗生産・中間育成を試み、 本症を発生させることなくクロアワビ種苗の大量生産に成功し、この結果種苗量産における本症の防除技術は確立された。
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感染症からアユをまもる飼育技術
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所    井口 恵一朗
 冷水病と呼ばれる感染症がアユの間で蔓延し、増養殖業に深刻な打撃を与えている。病害防除を目的に、 魚が備える本来の耐病性に着目して、病気にかかりにくい体調を維持する技術の開発を試みた。臨界を越えた個体数密度はストレスの原因となり、 ストレス反応が魚体の免疫活性を抑制するという発病のプロセスが検証された。とくに輸送過程で種苗が体験する高密度が、 搬入直後の大量斃死につながることが明らかになった。一方、群を作った集合状態には、個体数密度に由来するストレスを緩和する効果のあることを見出した。 容器に収容された種苗にとって、渦流の付加によって促進される成群に、冷水病の発症を抑制する作用があると考えられた。
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魚類の成熟・産卵誘導技術
(独)水産総合研究センター 養殖研究所    香川 浩彦
 魚類の養殖や栽培漁業には、大量の種苗を安定して生産する技術の開発が不可欠である。長年の繁殖生理学的な基礎研究により、 性的に全く未熟なウナギでさえも成熟誘導し、得られたふ化仔魚レプトケファルス幼生まで飼育することに成功した。 本稿では繁殖生理学的な基礎研究とそれを応用した種苗生産技術についてわれわれが行ってきた研究を中心に概説する。
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