Vol.26 No.3
【特 集】 心の豊かさをささえる花き産業


国内花き産業の現状と将来
農林水産省 農林水産省生産局    近藤 秀樹
 これまで順調に伸びてきた花きの需要は、長引く不況により、近年、停滞している。一方で、海外からの輸入は増加傾向にある。このような状況の中で、 今後も国内花き産業が発展していくためには、花きの利用のPRと、多様な消費者ニーズに対応した花きの供給により、国産花きを中心とした需要拡大を図ることが必要である。

 そこで、花きをめぐる現状と将来に向けた行政としての対応について解説する。
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世界の花き流通と日本市場
株式会社 大田花き    磯村 信夫
 経済と同様農業でもグローバリゼーションとブロック化が起こっている。そして今後日本の花き生産は東アジアと相互依存を深めていく運命にある。 日本の消費者にとって国内で花き生産が行われるメリットは大きい。日本で花き生産を活性化するには育種が課題で、花の好ましい遺伝子と能力を十分に引き出す栽培指針が必要である。 現在、国内で作られている品種に海外産が多いということはかつて国内だけの競争を前提としていたことの名残であろう。今後はグローバリゼーション、とりわけ東アジア自由貿易圏を意識した育種が急務である。 役割分担として、国・県が「花保ち」「経済性」を、民間種苗会社が「新規性」を、そして流通業者が製品輸出を担当することが望ましい。
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花きグローバル戦略下の技術開発
キリンビール(株)植物開発研究所    三井 俊介
 キリンビールのアグリバイオカンパニーでは、花き種苗(キク、カーネーション、花壇用花き・鉢花)、花き流通、バレイショ事業を中核事業と位置付け、 商品開発から生産・販売までの一貫した事業を日本国内だけでなく、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、南米、アジアなど世界を舞台に活動の場を広げてきた。 1990年に事業部として発足して以来、着実に事業規模を拡大し、現在では国内外に多数のグループ会社を有し、そのシナジー効果によってキリンアグリバイオグループ全体の強化・ 拡大を目指している(中田、1999)。

 本レポートでは、そのアグリバイオビジネスの概要を説明するとともに、技術開発がどのように事業に関わってきたかについて紹介する。
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花き育種分野における細胞工学的技術の展開
千葉大学園芸学部    三位 正洋
 花きの育種においては、組織培養、細胞融合、遺伝子組換えなどの細胞工学的技術が、遺伝的な変異の拡大、種間雑種の作出、外来遺伝子の導入など、従来の交配技術を補う手段として、 また従来技術ではなしえなかった育種を可能にする手段として利用されている。多様な植物を含み、常に新奇な観賞価値の創出、すなわち新品種の作出が求められる花き園芸植物においては、 短期間に効率よく育種を行う手段として、細胞工学的技術はますます重要な役割を果たすものと期待されている。
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花色の生合成遺伝子と制御
(独)農業技術研究機構    腰岡 政二
 遺伝子組換え技術を用いた育種は、一部は既に実用化されており、花きにおいても花色を改変したカーネーションがわが国で販売されている。花色は花きにおける最も重要な形質の一つであることから、 花の色素の主要な部分を占めるフラボノイド系色素については研究が進み、カルコンからアントシアニンに至る生合成過程を支配する多くの酵素遺伝子が種々花きから単離・同定され、 遺伝子機能の解明のみならず遺伝子組換え技術を利用した花色の改変が試みられている。
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イオンビーム照射による花き突然変異育種の展開
(独)農業生物資源研究所 放射線育種場    永冨 成紀
 イオンビームの突然変異誘発効果について、キクの再分化培養系を用いて検討した。イオンビームはガンマ線に比べて局所に高いエネルギーを与え、複色など従来には少ない変異体が得られ、 変異の種類を拡大する効果があった。イオンビームの花色変異率はガンマ線の約半量であるが、新たな変異源として利用できる。キクの原品種「大平」から6種類の花色突然変異体を品種登録に申請し、 切り花や鉢植え用に利用できる。この培養系を用いた突然変異技術は従来の個体照射に比べて、キメラのないはるかに幅広い種類の突然変異体を誘発でき、今後ほかの作物への適用が期待できる。
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花き生産・流通新技術開発の現状  −切り花を中心として−
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科    土井 元章
 稽古花、仕事花から家庭消費中心の需要へと花きの需要形態が変化するなかで、新しい時代の価値観に即して生産と流通構造を改変する必要が生じている。切り花では、 新鮮で長持ちする花を納得のいく価格で供給するシステム構築が求められており、消費者が安心して購入できるような品質保証体制の確立が必要となっている。そのような変化に対応すべく、 生産技術としては、効率的な生産システムの構築に関する種々の技術が開発されるとともに、短茎多収をめざす栽培管理法や環境保全に配慮した資源循環型の生産手法といった新技術が開発されようとしている。 一方、流通技術としては、切り花の生理特性に基づく農林水産省主導のもとで推進されており、国際競争にさらされる中で生き残りをかけて国内花き生産の進むべき方向が模索されている。
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