Vol.28 No.4
【特 集】 共生をめざした鳥獣害対策


下記文中の「(独)農・生研機構」は「独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構」の略です。

人間と野生動物との共存問題
奈良大学 文学部    高橋 春成
 米を生産し,仏教を信じ,日本語を話すなかで,動物との間に親密性や連続性をもち,殺生や肉食をさけるというのが, 主に本土に居住してきた人々の伝統的動物観であった。今日の拡がる野生動物による農林業被害においては,話題が被害防除や駆除などに集中しがちであるが, 風土のなかで培われた動物観をふまえ,科学的なデータ分析を進め,生物多様性を基本に野生動物と人間の生活のおり合いをつけていく必要がある。
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農林水産省における野生鳥獣による農林業被害防止対策の現状
農林水産省生産局 農産振興課技術対策室    新荘 裕之
 野生鳥獣による農作物被害の状況は,平成15年度では面積で約13万ha,金額は約200億円となっている。このうち,イノシシによる被害は西日本を中心に, 約50億円,サルによる被害は,全国各地で発生しており,約15億円となっている。これら鳥獣による農作物被害を防止するため,農林水産省においては, 被害発生要因の解明と効果的な対策技術の開発を進めるとともに,侵入防止柵,追い払いなど自衛体制の整備や必要な知識の普及啓発などに対し支援を行っている。 また,中央レベルでの関係省庁の連絡体制を整備するとともに,都道府県の情報交換を密にするための体制の整備を進めており, 関係者が一体となって対策に取り組んでいる。
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シカの農林業被害対策としての個体群管理
新潟大学 農学部    三浦 慎悟
 シカの増加が続き,農林業被害が深刻である。被害防除技術の開発と普及が急がれるが,一方では個体数管理を科学的に展開していく必要がある。 シカの人口学的パラメーターのうちメスの生存率が個体群の増加率やサイズにもっとも強い影響を及ぼすことがわかった。したがって, より効果的な個体群サイズの削減を行うには,ただいたずらに捕獲数を増やすのではなく,個体群と被害のモニタリングを踏まえ, 周到に準備されたメスの捕獲を行う必要がある。
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ニホンザルによる農業被害の総合的防除に向けて
(独)森林総合研究所 関西支所    大井  徹
 ニホンザルによる農業被害は年間約15億円に上っており,さまざまな防除方法が実施されている。しかし,被害は相応には減っていない。 効果について十分な検証がなされないまま,ほとんど役に立たない防除方法が実施されているか,誤ったやり方やいい加減なやり方で適用されていることが多いからだ。 研究面では,特に防除器具・設備に対するサルの馴れの問題,捕獲の考え方,方法の問題,森林管理の問題,防除体制の整備・維持の問題についての検討が不十分であり, 今後の推進が必要である。
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イノシシの生態解明と農作物被害防止技術の開発
(独)農・生研機構 近畿中国四国農業研究センター    仲谷  淳
 農作物への獣害が各地で問題となり,本州以南ではイノシシ害が深刻である。農林水産研究高度化事業で実施されているイノシシの課題を例に, その獣害研究と今後の方向性について紹介したい。獣害対策は「個体群管理」,「生息地管理」,「被害防除」を基本に,科学的知見に基づいた総合的な対策が重要である。 今後の研究推進では,野生動物自体を中心に扱う動物学的アプローチに加え,人間の諸活動を扱う社会科学的アプローチが一層重要となる。 そのためには,広大な面積を占める中山間地域の未来像をしっかり視野に入れた広範な共同活動が欠かせない。
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ハクビシンの生態と被害防止策
奈良教育大学 教育学  鳥居 春己
 ハクビシンは外来種かどうか確定していない。彼らは果樹を中心とした雑食性で,甘いものを好み,みかん,イチゴ,ブドウなど多くの果樹が被害を受ける。 近年は人家に入り込み,生活被害が大きい。家族は母親と子が基本だが,ねぐらには複合群でいることもあり,被害を大きくする要因となっている。 樹上生活が得意なため,多くの被害の防除は困難なことが多い。電気柵やトタン巻きなどを併用するなど,複合的な策を検討する必要がある。
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渡りと木の実の豊凶から考えるヒヨドリの鳥害対策
(独)農・生研機構 中央農業総合研究センター    山口 恭弘
 ヒヨドリは留鳥の個体と渡りをする個体がいるが,秋の渡りの観察情報を全国規模で集めたところ,北より南の地域で早い時期から渡りが始まり, 期間も長いという傾向が明らかになった。これはヒヨドリの渡りがまず地域内で始まり,ついで北の地域より次々と渡ってくることを意味すると考えられた。 また,木の実の豊凶とコマツナの被害の関係を茨城県つくば市で3年間調査したところ,木の実が豊作の年には被害が少なく不作の年には大きいという結果が得られた。 これらのことより全国規模で木の実の豊凶をモニタリングすることで,その年の西南日本へのヒヨドリの渡来数,そして被害の程度を予測することが可能であると考えられた。
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