Vol.28 No.11
【特 集】農林業生産現場で活躍するロボット


下記文中の「(独)農・生研機構」は「独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構」の略です。

農業生産の軽労化・省力化を先導するロボット技術
北海道大学 大学院農学研究科    野口  伸
 日本農業のおかれている最近の状況は厳しさを増している。とくに労働力不足は深刻であり、農業生産の軽労化、省力化はわが国の農業を持続的に発展させるうえで緊急課題である。 一方、官学を中心に農業生産のロボット化にかかわる研究開発は進展している。とくに高精度GPSが低価格化し、 電子基準点などのインフラも整備されたことは圃場で使えるロボット技術の発展に多大に寄与している。本稿では、車両系機械のロボット化を支える要素技術、 そして次世代のロボットシステムの最新研究成果を幅広く紹介する。
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無人田植機を利用したロングマット水耕苗の移植作業
(独)農・生研機構 中央農業総合研究センター    長坂 善禎
 筆者らはこれまでに開発した無人田植機のシステムを改良し、位置計測に仮想基準点による補正情報を利用した高精度GPSを、また、 姿勢計測に圧電振動ジャイロと傾斜センサを組み合わせた低コスト姿勢計測装置を使用した。計測した位置と姿勢のデータから、 メインコンピュータで田植機各部の操作量を計算してプログラマブルコントローラに制御信号を送り、各アクチュエータを操作して無人作業を行った。 この改良した無人田植機にロングマット水耕苗を搭載して、農家圃場で移植実験を行った。ロングマット水耕苗の利用により、苗補給の必要がないことから、 圃場1筆を人が介在することなく無人で移植作業することが可能になった。
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野菜接ぎ木ロボット
(独)農・生研機構 生物系特定産業技術研究支援センター    小林  研
 高品質な果菜類を安定生産する技術として、接ぎ木栽培が広く普及している。育苗と栽培の分業化が急速に進むなか、育苗現場では、 接ぎ木苗生産における全労働時間の40%を占める接ぎ木作業の省力化が問題となっていた。このような背景から接ぎ木ロボットの研究が精力的に行われた結果、 1990年代以降さまざまなタイプのロボットが相次いで実用化された。国内での普及が100台を超えるまでになった接ぎ木ロボットであるが、完成された機械となるためには、 改善すべき問題点も残されている。
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イチゴ収穫ロボット
(独)農・生研機構 生物系特定産業技術研究支援センター    林  茂彦
 人間と共存する次世代ロボットの開発が進められるなか、農業分野では果菜類の収穫ロボットの実用化に期待が集まっている。 イチゴの生産においては規模拡大を図るうえで収穫作業やパック詰め作業の省力化が急務であり、収穫ロボットの必要性は高い。 開発中の高設栽培用イチゴ収穫ロボットは円筒座標系マニピュレータをベースにしており、画像処理により果実の着色度合いを判定したのち果柄を切断して摘み取りを行う。 収穫ロボットの開発・実用化が進めば、将来収穫ロボットは作業の自動化に加え農産物情報を収集することも可能で、情報化施設園芸の確立に大きく寄与するものと期待できる。
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トマト収穫ロボット
岡山大学大学院環境学研究科    門田 充司
 トマトはわが国で栽培される果菜類の中で生産量が最も多い作物であり,労力を軽減する目的で収穫作業のロボット化が長年研究されてきた。 本稿では,これまで研究されてきたトマト収穫ロボットを紹介し,収穫ロボット全般が実用化において抱える問題点を述べる。 また,近年各地で建設が進む大規模トマト生産施設を例に,ロボットの実用化に向けての考察を行う。
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牛群管理を徹底・省力化できる搾乳ロボット
(独)農・生研機構 畜産草地研究所    喜田 環樹
 酪農家は365日,通常朝晩2回定時に搾乳をしている。「搾乳ロボット」はこの搾乳作業を自動化し,ロボットセンサ・アームにより乳頭へ搾乳機器を自動装着する機械である。
 搾乳ロボットは現在20カ国で3,000台以上が普及しており,わが国でも120戸で計150台ほどが稼動中である。搾乳ロボットは普及している農業ロボットの一つと言える。 本報では搾乳ロボットの研究開発の経緯および将来予測について報告する。
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林業再生のための作業支援ロボット
早稲田大学 WABOT-HOUSE研究所    櫛橋 康博
 森林の保全と健全な林業経営を取り戻すためには,急峻な地形ゆえの森林作業の機械化の遅れ,従事者数の減少や高齢化など,わが国の実情に対応した機械の開発, 導入が必要である。その解決策の1つとして,小型軽量で機動性の高いロボットが有効であると考えられる。本稿では,2組のアームで幹を把持し, 幹での昇降と旋回が可能な木登りモジュールにさまざまな森林作業に特化した機能モジュールを搭載し,遠隔操縦で森林作業を支援するロボットWOODY-1について, 開発に至る背景ならびにシステムのコンセプトおよびロボットの概要について紹介する。
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