Vol.29 No.9
【特 集】 食品機能性研究の最前線


食品機能性研究の展望
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所   津志田藤二郎
 食品の機能性に関する研究成果は,社会に還元されてその真価が問われる時代を迎えている。例えば,機能性成分は食品由来の成分であることから, その安全性は高いが,高濃度のものを長期にわたって摂取し続けることが長い目で見て健康に良いことであるかどうかも検討しなければならない時期に来ている。 そこで,機能性の科学的なエビデンスをより一層明確にするため,最新のゲノム科学を活用したニュートリゲノミクス研究や個人の遺伝的特性を考慮したテーラーメード食品の開発に向けた研究, そして機能性成分の過剰摂取なども視野にいれた安全性に関する研究を重点的に実施することが必要になっている。
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食品成分の相互作用による脂質代謝制御
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所    井手  隆
 食品成分の組み合わせが生体の脂質代謝に与える相互作用を動物実験で解析した。セサミン,フィトールおよび魚油は肝臓の脂肪酸酸化誘導活性を持つ食品因子である。 セサミンと魚油の組み合わせでは脂肪酸酸化活性の相乗的上昇が,反対にフィトールと魚油の組み合わせでは相殺的な活性変化が観察された。 また,共役リノール酸と魚油の組み合わせでは肝臓および脂肪組織の脂質代謝と糖代謝に複雑な相互作用が観察された。機能性成分の組み合わせが, 個々の成分の機能から予測されるものとは異なった生理効果を発揮することが示された。
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食品成分による脂肪細胞機能の制御
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター     関谷 敬三
 肥大した脂肪細胞はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)や生活習慣病の原因にもなっていることから健康増進のためにも脂肪細胞はより小さくする必要がある。 そこで、私たちは食品成分に脂肪細胞を小さくする作用はないかと考え,脂肪細胞分化あるいは脂肪分解に及ぼす影響を検索評価した。 ダイズやカンキツに含まれるイソフラボンやヘスペリジンなど,よく知られている農作物成分に活性を見いだし、活性の発現には核内受容体(PPARs)が関わっていることを明らかにした。 今後、急増しているメタボリックシンドロームを予防改善するためにも脂肪細胞機能を制御する食品の研究がますます重要となる。
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ポリフェノールの吸収に関する最近の知見
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部    寺尾 純二
 植物中に存在するポリフェノール類は疾病予防に関わるフィトケミカルとして注目されている。食品成分としてポリフェノールを有効利用するためには, 摂取後の消化管から体内への吸収機構やその吸収効率を明らかにする必要がある。一般にポリフェノールの一部は消化管において腸内細菌の作用で加水分解や代謝変換を受けた後に吸収される。 一方,ケルセチン配糖体のように小腸上皮から直接吸収される機構も存在する。ポリフェノールの種類により吸収機構やその効率は大きく異なるため, 個々のポリフェノールについての吸収をよく理解しなければならない。
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食品成分による免疫調節
東京大学大学院農学生命科学研究科    八村 敏志
 食品成分の免疫系に対するさまざまな作用が明らかになりつつある。これら食品成分が最初に接する腸管免疫系においては, 食品タンパク質に対する免疫抑制機構が働き,免疫グロブリンA(IgA)抗体が分泌される。乳酸菌,難消化性オリゴ糖類, ポリフェノール類などによるアレルギー反応抑制,炎症抑制,感染防御能増強について,動物モデルやヒト試験で報告されている。
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食品成分によるがん予防
京都府立医科大学大学院分子生化学    西野 輔翼
 食品には種々の発がん抑制物質が含有されている。例えば,抗酸化物質,抗炎症作用を持つ化合物,ビタミン類,ホルモン様作用を示す化合物, 免疫機能調節物質,がん原性物質を不活化する酵素群を誘導する化合物,がん抑制遺伝子発現誘導物質,アポトーシスを誘導する化合物など極めて多彩なものが見いだされている。 それらの成分を活用して,ヒトにおけるがんの化学予防が可能であろうと考えられており,多くの研究が進められてきた。これまでにどのような成果が得られているのかを概観し, 最前線における研究の動向について紹介する。
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網羅解析技術による食品成分の機能性評価
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所    小堀 真珠子
 食品成分の作用は医薬品とは異なり,比較的弱く多様であることに特徴がある。このような食品成分の機能性の評価に有効で, また安全性評価へも活用できるのが網羅解析技術である。DNAマイクロアレイは遺伝子の網羅解析であるゲノミクス(ニュートリゲノミクス)に用いられ, 食品成分の作用で変動する遺伝子発現を解析することにより,機能性評価に利用されている。またタンパク質および代謝産物の変動を, プロテオミクスおよびメタボロミクスの技術を取り入れて測定することにより,さらに総合的な機能性評価が可能になる。一方,遺伝子多型の解析から, 個人の体質と生活習慣病の関係が明らかになりつつあり,個人の体質や体調に合った食生活の構築が目指されている。
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