Vol.29 No.10
【特 集】 カドミウム汚染土壌対策技術


カドミウムのリスク管理をめぐる現状と展望
(独)農業環境技術研究所   小野 信一
 農用地のカドミウム汚染は大変厄介な問題である。その一つは汚染面積が広いということである。現行の法律(土壌汚染防止法)で指定された汚染地域は6,000haにもなる。 これらの地域は修復工事が進んでいるが、今後農産物のカドミウム濃度の上限基準値が厳しくなれば、汚染面積はさらに拡大すると思われる。 二つめは、農作物のいくつかはカドミウムを根からかなり吸収するということである。健康に配慮して可食部のカドミウム濃度を下げるために、 関連した研究の進展が大いに望まれている。
←Vol.29インデックスページに戻る

カドミウム低吸収性、高吸収性イネ品種の育成
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター    山口 誠之
 玄米カドミウム吸収性が低い品種は育成に長期間を要すると考えられていたが、最近、玄米カドミウム吸収性の低いイネが明らかになり、 ようやく低吸収性品種の育成に見通しが立ってきた。現在、低吸収性の素材「LAC23」の特性を改善する品種改良が進められている。また、 カドミウム汚染土壌のファイトレメディエーション用の茎葉カドミウム高吸収性品種の育成も茎葉高吸収の素材「長香穀」が見出され、 品種改良が進められている。これらの品種育成を効率的に進めることができた背景には、土壌肥料分野の研究者との強い連携関係があったことを忘れてはならない。 品種育成を進めるうえで分野間の連携は、これからますます重要になる。
←Vol.29インデックスページに戻る

ダイズのカドミウム吸収に関する品種間差異とその機構
(独)農業環境技術研究所     杉山  恵
 ダイズはコメと同じように日本人にとって摂取量が多い作物であることから、カドミウムなどの有害重金属が子実に含有される割合は可能な限り低いことが望ましい。 安全なダイズ生産のためには石灰質資材の投与など栽培管理によってカドミウムの吸収を抑制する対策が必要である一方、ダイズがどのようにしてカドミウムを吸収するのかを把握したうえで、 よりカドミウム濃度が低い品種を育成する必要がある。ここでは、ダイズのカドミウム吸収は品種間によって異なり、それは根のカドミウム蓄積能力の違いによること、 わが国で栽培されているダイズはカドミウムの吸収について2つのグループに分かれることを紹介する。
←Vol.29インデックスページに戻る

カドミウム汚染土壌の栽培植物を用いた修復
(独)農業環境技術研究所    村上 政治
 精米に含まれるカドミウムの国際基準値案が0.4mgkg-1として最終採択されたことをふまえ、基準値以上のカドミウムを含んだコメを産出する圃場に対する新たなカドミウム汚染土壌の修復技術が必要となった。 環境負荷が少なく安価な修復法として、超集積植物を用いたファイトレメディエーションが海外では注目されている。しかし、 超集積植物には体系化された栽培方法がないため大面積を対象とした実用化は困難であると判断し、栽培植物の中からわが国に適した修復植物としてイネを選択した。 圃場試験の結果、カドミウム高吸収かつ難脱粒性のイネ品種を選抜した。現在、さらなる実用化に向けた圃場試験を全国規模で展開中である。
←Vol.29インデックスページに戻る

カドミウム汚染土壌の植物による修復技術一貫体系
(株)小泉 環境事業部    谷口  彰
 農用地において植物による土壌からカドミウム(以下Cdと表示)を除去するための経済的で環境に優しい浄化システム技術、 ファイトレメディエーションを開発、実用化する目的で研究を3年間実施した。 東北地域や西南暖地に適した修復植物としてCd吸収能が高いイネ品種の選抜とCd除去効率を向上させる栽培・節水管理技術、 Cd蓄積イネの圃場での効率的乾燥・梱包のための機械化および焼却処理によってCdを安全に効率的に回収する、 いわゆるファイトレメディエーションシステムの技術一貫体系を検討したのでその成果を報告する。
←Vol.29インデックスページに戻る

化学資材洗浄によるカドミウム汚染土壌の修復
太平洋セメント株式会社    高野 博幸
(独)農業環境技術研究所    牧野 知之
 CODEX委員会における農作物中カドミウムの国際的基準値の策定をふまえ、カドミウム汚染土壌の修復技術の開発が喫緊の課題となっている。 本稿では塩化第二鉄を洗浄剤として、長野県下のカドミウム汚染水田における土壌洗浄実証試験の結果を紹介する。洗浄の結果、 0.1mol塩酸で抽出される土壌カドミウムは洗浄処理に伴い大きく低下した。洗浄処理は玄米収量に対して大きな影響を示さず、 玄米カドミウム含量が大幅に低下したことから、本法の土壌浄化効果が確認された。
←Vol.29インデックスページに戻る

電気泳動技術を用いた重金属汚染土壌の修復
滋賀県立大学 環境科学部    川地  武
 先進工業国を中心として市街地の土壌・地下水汚染が問題化し、わが国でも土壌汚染対策法が制定、施行され、対策技術の開発・実用化が進んでいる。 ここでは、重金属汚染土の対策技術の現状を紹介し、原位置で処理、浄化する技術として注目される電気泳動による修復につき、 六価クロム汚染土を用いた大規模実証試験の結果を述べた。さらに、電気泳動による修復技術のカドミウム汚染水田への適用性に関する室内実験の結果と今後の課題を述べた。
←Vol.29インデックスページに戻る