Vol.30 No.8
【特 集】 美しい農村景観づくり


美しい農村景観づくりの現状と展望
(財)農村開発企画委員会    楠本 侑司
 農村景観はその地の風土により営まれる農林業の態様によりかたちづくられている。景観は農地と集落を中心とした土地利用の使われ方の表現と言っても言い過ぎではない。 その見え方の善し悪しや特徴がその地の景観を決定づけている。農村では景観を貴重な地域資源として位置付け,その形成を図ることにより活性化の道を探ろうとする市町村も見え始めてきた。 本編では景観づくりの基本的な視点を解説し,活性化に取り組む市町村の動向から,今後の景観形成に向けての視点と手法をまとめている。
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土地利用の視点からみた農村景観の変容と
保全・形成のあり方
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 農村環境部    栗田 英治
 景観法の施行などを受け,農村景観の保全・形成のあり方が模索されている。今後の農村景観のあり方を考えていくうえでは,保全・形成を図るべき農村景観が, どのような形成過程や変容を経て,現在の景観として成立してきたのかを検討することは重要である。本報では,台地域および山地域を対象に農村景観の変容を人為的な管理の変遷, 変化の要因などとの関係から調査・解析を実施した。その結果,農村景観の変容を,耕作放棄や粗放化などの住民の働きかけが失われていくなかでの変化と, 集約的な作付けへの転換や機械化などに対応した区画の変更などの住民の積極的な働きかけによる変化に分けて把握することができた。
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歴史的・伝統的な景観の保全
東京大学大学院 新領域創成科学研究科    横張  真
 農村景観は,審美的な議論の対象としてよりも, 人と自然の関係性の視覚的な表象として理解する必要がある。歴史的・文化的な農村景観の保全はそれゆえ, 人と自然の生きた関係性を継承することを目的とすべきである。しかし,人と自然の関係性は,農業生産上の技術革新や生活形態の影響を受け変化するものであり, 歴史的・文化的な形態の維持とは矛盾する面をもつ。こうした矛盾に対して最近は,形態よりもむしろ歴史的・文化的な農村景観を継承する行為や意識の保全を重視する考えがある。 今後は,こうした考えにもとづき,行為や意識の継承に着目し,景観の動態的な保全を図る枠組みの確立が求められる。
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住民参加による農村景観づくりと
コミュニケーションの技術
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 農村環境部    山本 徳司
 美しい農村景観は,農業が健全に営まれるとともに,農家をはじめとする地域住民が地域の景観を適正に保全・形成していく意思によって形づくられるものであり, 住民の主体的な参加なくして成立しない。本報では住民参加の意義や方法について述べるとともに,景観づくりを進めるにあたってのコミュニケーション支援ツールとなるワークショップ, 景観シミュレータ,地理情報システム(GIS)などについて紹介する。景観づくりは美しい景色づくりではなく,その本質は,地域住民が自分たちの住む農村の魅力や問題点を共有認識し, 農業者と非農業者,農村と都市などのさまざまな人々がコミュニケーションを通じて,地域の将来のあり方を考える活動そのものである。
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農村の造形と色彩的視点からみた景観の美しさ
多摩美術大学 美術学部    田口 敦子
 景観を「見える環境」として捉え,「見える対象」は造形要素(色彩,形態,素材)による相互的な関係によって構成されていることから, 景観を造形的視点から見ることは美しい景観とか醜い景観とかの評価を分かりやすくする方法である。近年,景観形成の効果を造り出す際, 造形要素の一つである色彩を整える環境色彩形成が注目されている。農村景観の特徴である自然系の緑を主体とした基調色調を生かして, 人々の営みを反映した田畑や建物の色彩を,融合的調和や対立的調和の美しさを目指して環境色彩を造り出してゆく考え方である。
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地域振興施策の観点からの「美しい景観づくり」
(社)農村環境整備センター 企画部    重岡  徹
 農村整備の課題として「景観づくり」が取り上げられてから四半世紀が経過した。1990年代前半までの「景観づくり」は,景観に化粧を施す“美化”“修景”を基調としていたが, 90年代後半以降,国民の価値観や生活様式の多様化が進むにつれて,景観を通して地域のあり方を見直す地域づくりとして展開するようになる。 これからの「美しい農村景観づくり」は,農村を“活力あるふるさと”として再生するために“農村景観の理解増進”“地域資源の再評価”“地域活力の向上”“都市農村交流の展開”を推し進める地域づくり運動として展開していくことが求められている。
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