Vol.32No.10
【特 集】 発光ダイオード(LED)の農林水産業への展開


農林水産業におけるLED利用と展望
千葉大学大学院 園芸学研究科    後藤 英司
 植物,昆虫,魚,家畜,微生物などが好む光は必ずしも人間のそれと一致していない。LEDはピーク波長を1つだけ持ち,波長幅が狭い単色系の光源であるため,他の光源では成し得なかった各生物に最 適な波長組成の光環境を作り出せる。本稿では,LEDが従来の光源と異なる点と特長について解説し,農林水産業におけるLED利用の展望を述べる。
(キーワード:LED,比視感度曲線,波長,光質,光応答)
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LEDによる長日性切り花類の開花促進メカニズムとその利用
東北大学大学院 農学研究科    金山 喜則
 省電力で長寿命な光源として注目されている発光ダイオード(LED)は,単色光を放射する性質を持つ。従って,LEDを切り花類における開花制御に利用するには,光質(光の波長あるいは色)と開花に関 する正しい知識とデータの蓄積が必要である。長日処理によって短日植物の開花を遅延させる光は赤色光であることは広く知られているが,長日性切り花類の開花促進のための長日処理において有効な光は, 赤色ではなく遠赤色光である。実際,シュッコンカスミソウやトルコギキョウにおいて,赤色LEDを夜間に照射しても開花は促進されないが,遠赤色LEDを用いると明確な開花促進効果が見られる。
(キーワード:LED,遠赤色光,長日性切り花類,開花)
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各種LED下で栽培したレタスの生育反応
筑波大学大学院 生命環境科学研究科    福田 直也
 各種発光ダイオード(LED)を光源として,閉鎖空間内で栽培したレタスの生育を評価した。LED白色光に対して,緑,赤の単色光におけるレタスの地上部生育重量は低下し,加えて赤色光では,著しい徒長 的外観となることが示された。また,赤色光では,徒長以外にも葉の巻き込み現象が観察されており,この現象は,栽培した光環境において青色光がない場合に発生するレタス葉表皮細胞の不均一な伸長による ものであることが判明した。このように,単色光の場合,外観的異常や光合成の低下などの問題が生じることから,各色を組み合わせた複合光,あるいは白色光のような光源がレタスの生育には適しているものと 考えられる。
(キーワード:LED,レタス,光合成,形態形成,青色光,赤色光)
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LEDを活用した植物工業開発の試み
玉川大学大学院 農学研究科    渡邊 博之
 今年になって農林水産省と経済産業省が本格的な植物工場事業の支援に乗り出したこともあり,植物工場関連技術の開発が盛んである。特に,太陽光併用型植物工場とともに人工光完全制御型植物工 場の技術開発が進んでいる。人工光完全制御型植物工場の栽培光源として従来から利用されてきた高圧ナトリウム灯や白色蛍光灯に加え,最近利用が始まったLED光源の特徴について解説し,LED光源を利用 した植物工場開発の試みについて紹介する。
(キーワード:植物工場,LED,水冷パネル,野菜工場,人工光完全制御型)
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農業害虫に対する光防除の利用と今後の展開
兵庫県立農林水産技術総合センター    八瀬 順也
 光を使った害虫防除は古くから利用されており,光源の種類と使用方法には変遷が見られる。現在はヤガ類成虫を対象に,活動抑制を狙った黄色蛍光灯や黄色HIDランプの使用が主流になっている。昆虫 の光に対する反応のメカニズムは未解明な部分が多く,光防除の今後の展開には対象とする害虫の視覚特性の解明が欠かせない。また,新しい光源であるLEDはエネルギー効率が高く,光質,光強度の制御が 容易であることから,これまで光防除の対象ではなかった昼行性害虫に対する利用など,光防除に新たな展開が期待される。
(キーワード:害虫防除,光防除,黄色灯,LED,視覚特性)
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漁業におけるLEDの利用と展望
香川大学大学院 工学研究科    岡本 研正
 筆者はこの30年間にわたり,さまざまな科学技術分野におけるLEDの新応用に関する研究を行ってきた。1980年ころから始まったLEDの高輝度化および短波長化に関する飛躍的な発展とともに,その研 究分野は工学に始まって,近年は理学,農学,医学,水産学にまで及んでいる。筆者は2000年春からLED集魚灯の開発研究に着手したが,本稿では,筆者が発明したイカ釣り漁船用LED集魚灯について紹介す るとともに水産業におけるLED応用について展望する。
(キーワード:集魚灯,LED,青色LED,イカ釣り漁業)
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菌床シイタケ栽培におけるLEDの利用
徳島県立農林水産総合技術支援センター 森林林業研究所    阿部 正範
 菌床シイタケ栽培におけるLEDの利用を図るために,LED照射が菌糸体生長と子実体発生に及ぼす影響について検討した。菌糸体生長量は,赤色LEDと緑色LEDは蛍光灯や暗黒と比べて同等であるが, 青色LEDは生長が阻害されたことから,LED照射による菌糸体生長の促進効果は期待できないことが分かった。しかし,子実体発生量については,菌まわし後の培養期間(熟成期間)に青色LEDを照射することで 増加した。青色LEDは,既存照明に比べて小型,長寿命などの長所を有するともに,増収効果が確認されたことから,菌床シイタケ栽培における照明装置として有望である。
(キーワード:菌床シイタケ,菌糸体生長量,青色LED,子実体発生,熟成段階,発生段階)
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「大和肉鶏」飼育におけるLED照明の応用
奈良県畜産技術センター    堀野 善久・藤原 朋子
 養鶏分野におけるLED照明の応用として,「大和肉鶏」飼養における照明器具の光源にLEDを導入し生産経費低減と品質向上に対する効果を検証した。白色LED照明はその発光スペクトルや指向性が白 熱灯とは大きく異なるが,鶏の生育に及ぼす影響は見られず良好な結果が得られ,その有効性が確認できた。照明色では,赤色LEDが実用的な照明色として最も適する結果となり,LED赤色光の最適照度は10lx までは生産性に大差はなく,作業・管理がしやすいこと,鶏の圧死防止につながることなどLED照明の生産現場への導入は有効であることが確認できた。
(キーワード;養鶏,LED,照明,照度,消費電力,悪癖)
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