Vol.33No.11
【特 集】 自給率向上のための国産麦の増産をめざして


小麦・大麦の増産による食料自給率向上に向けた研究の方向性
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所    小田 俊介・勝田 真澄
 2010年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」では,自給率の向上を目指し,今後10年で小麦の生産量を現在の約2倍の180万tに,大麦は35万tの生産量にすることを目標としている。こうした目標を達成するためには,品種・栽培技術・栽培体系における研究成果を結集して,高品質な麦類の安定多収を実現するとともに,水田の高度利用による栽培面積の拡大を図る必要がある。麦類の生産の現状と研究へのニーズ,今後の生産拡大に向けた研究方向について概説する。
(キーワード:小麦,大麦,用途別品種,自給率向上,高品質)
←Vol.33インデックスページに戻る

小麦粉の加工適正とグルテンタンパク質組成の関連と高品質な品種開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター    池田 達哉
 国産小麦の加工適性は輸入小麦銘柄に比べて劣ることが指摘されている。小麦の加工適性にはグルテンタンパク質に由来する生地の粘弾性が重要であり,その特性は主にグルテンタンパク質を構成するグルテニン・サブユニットとグリアジンの遺伝子型の組合せによって決定される。加工用途に適したグルテンタンパク質の組合せを明らかにするため,グルテンタンパク質の解析を行い,国内小麦品種と輸入銘柄のグルテンタンパク質の遺伝子型の構成を明らかにした。また,これらの解析から,加工適性に優れた品種育成のための育種戦略について検討した。
(キーワード:小麦,グルテン,グルテニン・サブユニット,グリアジン,育種)
←Vol.33インデックスページに戻る

超強力小麦「ゆめちから」の開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター    田引 正
 「超強力」小麦粉は生地物性がきわめて強いため,国内産中力小麦粉(日本めん用)にブレンドすることで,生地物性がパン・中華めん用に適した小麦粉になることが明らかにされており,国内産小麦の用途・消費拡大に寄与することが期待されている。2008年度に超強力小麦「ゆめちから」が北海道の優良品種に採用され,今後の普及が期待されていることから,本品種の栽培上の特性と品質特性(利用方法)について紹介する。
(キーワード:秋まき小麦,ゆめちから,超強力小麦,硬質,パン用)
←Vol.33インデックスページに戻る

製粉性および製めん性が優れる高品質多収小麦「きたほなみ」の開発
北海道立総合研究機構 北見農業試験場    吉村 康弘
 「きたほなみ」は日本めん用の秋まき小麦である。北海道の主要品種であった「ホクシン」と比較して,原粒灰分含有率が低く,製粉歩留が高く,粉色が良好で,製めん性が優れる。ゆでうどんの官能試験による評価はオーストラリア産小麦銘柄「ASW」に匹敵する。「きたほなみ」は「ホクシン」よりも収量性が高く,穂発芽耐性が優れる。耐病性についても改良が図られている。「きたほなみ」が普及することにより,国内産小麦の品質と生産性の向上,生産コストの低減が期待される。
(キーワード:小麦,製粉性,粉色,製めん性,収量)
←Vol.33インデックスページに戻る

新規形質を付与した食用大麦・はだか麦品種育成の動向
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター    柳沢 貴司
 大麦・はだか麦は食用としては麦ご飯や味噌・焼酎醸造などに利用されている。自給率向上のためには単位面積当たりの収量を向上させるだけでなく,今までにない付加価値を持つ品種を開発し,その生産拡大を基に収益性や需要拡大を図る必要がある。ポリフェノールの一種であるプロアントシアニジンを欠く品種を用いた麦ご飯は炊飯後の褐変がほとんどない。また大麦は食物繊維であるβ―グルカンを豊富に持つが,その含量が非常に高い品種が育成された。このように精麦品質を高めることを目的とした新規形質を付与した品種育成の現状やそれに関する研究の状況,そして今後の展望について取り上げる。
(キーワード:大麦,はだか麦,ポリフェノール,プロアントシアニジン,β―グルカン)
←Vol.33インデックスページに戻る

麦の作付体系研究の現状と課題
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    渡邊 好昭
 自給率向上のために麦が果たす役割は大きく,その生産の場として水田が想定される。コムギでは,パン,中華めん用の硬質コムギの増産が求められるが,水田では子実タンパク質含有率が低下しやすく,窒素追肥技術と効率的施肥のための生育診断技術の開発が求められている。また,水田で収量を増加させるためには排水対策が重要であり,地下水位制御システムを利用した安定生産技術の開発が期待される。さらに,国際競争力の向上のためには低コスト化が必要であり,そのため稲,大豆を含む作付体系において不耕起栽培や合理的な施肥技術の構築が必要となる。
(キーワード:コムギ,品質,コスト,作付体系,水田輪換畑)
←Vol.33インデックスページに戻る

秋播型小麦の冬期播種栽培と加工品質
岩手県農業研究センター 県北農業研究所    荻内 謙吾
 水稲や大豆等の夏作物の収穫作業と秋播小麦の播種作業の競合を回避するため,秋播型の小麦を根雪前の12月に播種する「冬期播種栽培」の技術を開発し,岩手県内への普及を進めてきた。冬期播種栽培は,慣行の秋播き栽培に比べてタンパク質含有率が高まりやすく,製粉特性や60%粉の特性,ファリノグラム特性値といった加工品質は秋播き栽培と同等を確保できる。また,タンパク質含有率が高くなることで,パン体積が大きくなり,製パン特性が向上する。
(キーワード:秋播型小麦,冬期播種,加工品質,タンパク質含有率)
←Vol.33インデックスページに戻る

北部九州における「ミナミノカオリ」の栽培技術
福岡県農業総合試験場    岩渕 哲也
 コムギ品種「ミナミノカオリ」は西南暖地でも栽培可能なパン用コムギとして作付けが拡大している。しかし,製パン適性は外国産パン用コムギ品種に比べて劣ることから,「ミナミノカオリ」の製パン適性向上が求められている。そこで,施肥法,播種時期および収穫時期と製パン適性について検討したところ,出穂期後の窒素追肥を行うこと,早播きはグルテンの質が劣り,製パン適性が劣るため行わないこと,グルテンの質や生地物性が優れる成熟期後3〜7日で子実水分含量20%以下となる時期に収穫することで,製パン適性の向上が図られた。
(キーワード:播種時期,パン用コムギ,施肥法,製パン適性,収穫時期)
←Vol.33インデックスページに戻る