Vol.35 No.7
【特 集】 ソバ・ナタネの生産拡大と安定生産技術


ソバ、ナタネの生産拡大と安定生産技術に向けた技術開発の現状
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所     大潟 直樹・勝田 眞澄
 ソバおよびナタネはわが国の食料自給率の向上,また水田の高度利用を図るうえで重要な戦略作物となっている。生産性の向上に向けて,品種開発場面では,ソバでは耐倒伏性,難脱粒性,加工適性, ナタネでは無エルシン酸および低グルコシノレートが求められ,また湿害を低減する耕種技術の開発も求められている。(独)農業・食品産業技術総合研究機構はソバ,ナタネの新技術開発に関する中期計画を 設定し,委託プロジェクトとともに,全国のソバ,ナタネの生産振興に貢献するべく技術開発を行っている。
(キーワード:ソバ,ナタネ,品種開発,救荒作物,水田裏作)
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北海道におけるソバ品種およびソバ作の動向
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター    森下 敏和・鈴木 達郎
 北海道は国産ソバ生産量の約4割を占める最大の産地である。北海道では1990年に育成された「キタワセソバ」が北海道のソバの9割以上を占めている。その後「キタユキ」や「キタノマシュウ」などの品 種が育成されたが,栽培面積を伸ばすに至らなかった。2010年に登録品種となった「レラノカオリ」は2012年に北海道の優良品種に認定され,「キタワセソバ」よりも多収であることから3,000ha 余りの普及面積が見込まれている。さらに製粉歩留りが「キタワセソバ」よりも優れることから実需者も興味を示している。これまで北海道は事実上「キタワセソバ」単一品種であった状況が変化しようとしている。
(キーワード:ソバ品種,「キタワセソバ」,「レラノカオリ」,北海道のソバ栽培)
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作期の拡大によるソバの安定生産の可能性
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター    手塚 隆久・松井 勝弘・原 貴洋
 九州のソバ栽培を広めるためには,気象環境に適応した生産性の高い栽培技術と品種が求められる。秋まき栽培は播種期が8月中旬から9月上中旬までであり,南九州では播種時期が遅い。秋まき栽培 品種は短日要求性が大きく,生育日数が90日程度と長く,他地域と比較して高い収量性が特徴であるが,秋の長雨や台風のために収量安定性が低い。その対策として,生育日数が70日程度で収量性が高い秋 まき品種の利用が考えられる。春まき栽培は盛夏に新蕎麦が出荷できるので実需者の要望が高く,生育日数が短いので基幹作物の前後作として利用できる。
(キーワード:ソバ,作期拡大,秋まき品種,春まき品種)
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湿害軽減のためのソバの播種技術
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    細川 寿
 ソバは湿害に弱い作物であるが,その作付面積の約2/3以上が水田転換畑であるため,収量の安定と増加が重要な課題である。ソバの湿害は,播種や開花などの時期により影響が異なるが,特に播 種時期の湿害は種子に致命的な影響を及ぼすため,湿害軽減対策が必要である。ダイズ栽培では,湿害を軽減する播種技術が開発されており,それをソバ栽培に応用することによって湿害軽減効果が期待さ れる。また,散播方法などについても技術開発が行われている。具体的には,畝立て栽培による湿害軽減が中心となるが,ソバ栽培は,生産コストの面や栽培規模なども考慮しながら導入技術を検討する必要 がある。湿害軽減技術の開発と普及が国産ソバの安定栽培に向けた基盤技術となり,収量の安定的な増加につながると考えられる。
(キーワード:ソバ,湿害,畝立て,転換畑,排水)
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転換畑における畝立て同時播種によるナタネの湿害軽減技術
岩手県農業研究センター    高橋 昭喜・扇 良明
 転換畑ナタネ栽培における生育期の湿害を軽減するため,ナタネの畦立て同時播種技術を開発した。この播種機は,爪配列を改変した代かきハロー,排土板付き畦間サブソイラ,改良した播種ユニット ,播種ロールの周速度を無段階で調整できる電動コントローラにより構成され,高さ7〜8cm の畦を立てながら,10a 当たり400〜500g の極少量播種が可能である。この播種機を用いることにより,慣行散播栽培より播種量を減らすことが可能なうえ,安定した苗立ちや収量が得られる。
(キーワード:ナタネ,転換畑,湿害軽減,畦立て同時播種)
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ソバ・ナタネ二毛作栽培に向けた機械作業技術体系の開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター    齋藤 秀文・片山 勝之
 寒冷地にある東北地域では,ソバとナタネの収量水準は全国平均と比べて低く,気象的制約から作物切り替え時の作業競合が厳しいため,北東北を中心に1年1作の作付体系が採られることが多い。土 地利用効率を高め,省力的な高生産性水田輪作体系を確立するには,ソバ‐ナタネ二毛作体系を確立する必要がある。そこで立毛間播種作業技術を利用し,立毛中のソバの間にナタネを播種することで,寒冷 地でソバ‐ナタネの二毛作が可能になることを明らかにした。また,短期間で作目切り替えができ汎用性が高い簡易耕同時施肥播種技術により,ナタネ後のソバおよび水稲後のナタネを高能率に播種でき,水田 輪作におけるソバ‐ナタネ二毛作体系に利用できる。
(キーワード:ソバ,ナタネ,二毛作,立毛間播種,簡易耕同時播種)
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耕作放棄地の再生技術の開発およびナタネの安定生産
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    薬師堂 謙一
 耕作放棄地は全耕地面積のほぼ10%を占めており,食料自給率の低い日本において早急な改善が求められている。そこで,多年生雑草が優先する耕作放棄畑の営農的再生技術を開発するとともに, 再生後の導入作物としてナタネを選択し,ナタネの安定栽培技術の実証試験を行った。雑草の再生を防止するため,前植生の刈り取り1,2回後,夏期に除草剤散布,大型プラウによる耕起,高肥料成分濃度の 堆肥を施用し耕作放棄畑を復元した。伐採・抜根作業を除いた,除草→土壌改良→反転耕→撹拌耕までの所要時間は約20時間/ha,再生コストは約55万円/ha であった。条播と散播でナタネ栽培を行い,200kg/10a 以上の収量を確保できた。散播にはブロードキャスタや広幅施肥機が適しており,播種量0.5kg/10a で,散播後に鎮圧もしくはパワーハローで3cm 程度耕起することで所定の苗立ち数が得られる。また,復元畑においては堆肥の施用効果が高かった。
(キーワード:耕作放棄地,ナタネ,復元方法,堆肥施用,除草剤散布)
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