Vol.1 No.2
【特 集】 酪農における窒素循環効率化のための技術シーズ


酪農場におけるN,P,Kの利用と循環
農林水産省 農林水産技術会議事務局    小林 良次
 畜産草地研究所那須研究拠点において酪農実験農場におけるN,P,Kの利用と循環について調査を行った。本研究では実規模・実測を原則としてデータを収集し,年次間変動,農場内部の部門間について元素の移動を把握した。また,一般に環境負荷物質として注目されているNとPだけでなく,元素循環の効率化にはKへの配慮が重要であることを指摘した。本稿では2000〜2004年に本研究で得られたデータの解析結果を紹介する。
(キーワード:酪農,資源循環,N・P・K循環指標)
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ふん尿量および窒素排泄量低減のための栄養管理
酪農学園大学    扇 勉
 全国の研究機関で実施された乳牛の消化試験(n=535頭)に基づき,ふん尿の貯留施設容量や環境負荷量の算出基礎となるふん尿量および窒素排泄量を示すとともに,それらに及ぼす栄養的要因を検討した。2産以上の牛では乳量が34.2kg/日,乾物摂取量が22.2kg/日で,ふん量は51.8kg/日,尿量は15.1kg/日,ふん中窒素量は190g/日,尿中窒素量は151g/日となり,ふん量は乾物摂取量およびNDF含量と,尿量は窒素およびカリウム摂取量と,ふんおよび尿中窒素量は窒素摂取量と各々正の相関がみられた。良質粗飼料の給与や飼料中タンパク質とエネルギ−のバランスを図ることにより,ふん尿量および窒素排泄量の低減が可能と考えられた。
(キーワード:乳牛,ふん尿量,窒素排泄量,窒素出納)
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家畜排せつ物の堆肥化で生ずる一酸化二窒素ガスの発生と微生物制御法
農林水産省 農林水産技術会議事務局    福本 泰之
 家畜ふんを堆肥化処理すると悪臭や温室効果ガス等の様々な環境負荷ガスが発生するが,家畜ふんは窒素を多く含むため,温室効果ガスの一酸化二窒素が多く発生する。一酸化二窒素は微生物活動により生成されるため,それらの働きを理解することが抑制技術を開発する上で重要となる。家畜ふんの堆肥化では原料中に亜硝酸が蓄積し,それが原因で一酸化二窒素ガスが多く発生している場合がある。人為的に亜硝酸酸化細菌を添加すると,この亜硝酸蓄積を解消でき,その結果,一酸化二窒素ガスの発生量を削減することができる。一酸化二窒素ガスの発生量を抑制することで,完成堆肥中に残る窒素量 が増加するため,窒素の有効利用という観点からも有効な技術である。
(キーワード:家畜排せつ物,堆肥化,一酸化二窒素,地球温暖化)
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吸引通気式堆肥化システムによるアンモニアの回収
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    阿部 佳之
 家畜ふん尿の堆肥化過程で発生するアンモニアを回収・資源化するための吸引通気式堆肥化システムを開発した。本システムは,堆肥原料の底部から空気を吸引することで,原料の表面から新鮮な空気を取り入れて腐熟を促進すると同時に,原料から発生するアンモニアを底部の吸引配管で容易に集めることができる。吸引されたアンモニアは,リン酸や希硫酸を薬液とするアンモニア回収装置で液肥として回収され,これらは即効性のある窒素肥料として利用可能である。
(キーワード:吸引通気式堆肥化システム,家畜ふん尿,堆肥化,アンモニア)
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堆肥脱臭による臭気低減化と高窒素濃度堆肥の製造
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター    田中 章浩
 高窒素濃度堆肥は,堆肥化で臭気発生が顕著な初めの2週間に発生するアンモニア等の強い悪臭成分を,出来上がり堆肥に吸着させて製造することができ,アンモニアの97%,硫黄化合物の80%以上を吸着できる。高窒素濃度堆肥は,堆肥化で発生するアンモニアを出来上がり堆肥に吸着させて製造するため,速効性窒素成分を多く含み,通常の牛ふん堆肥の2〜3倍の窒素濃度となる。全窒素濃度を4%程度にコントロールした高窒素濃度堆肥の窒素肥効率は0.7と高く,窒素とカリの養分バランスが良いという新たな特性を持つ有機質肥料で,有機農業での利用が可能である。
(キーワード:堆肥化,臭気,脱臭,即効性窒素,有機質肥料)
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簡易手法による酪農雑排水の窒素低減
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    田中 康男
 酪農雑排水の浄化放流の際に窒素低減が必要になる場合がある。このような際に容易に利用できる窒素低減技術の候補として,硫黄脱窒法とパーライト添加法がある。硫黄脱窒法は,排水を硫黄と接触させ,硫黄酸化細菌の代謝により排水中の硝酸および亜硝酸態窒素を窒素ガスとして除去する。管理が容易だが,現状では専用資材を利用する必要があり,コスト低減に限界がある。安価な粉末硫黄の利用法確立が今後の課題である。パーライト添加法は,排水中に投入したパーライト粒の表面に増殖する微生物で汚水の浄化と窒素低減を行う。簡易な施設で対応できる長所があるが,曝気に伴う流動でパー ライトが磨耗する。磨耗を最低限にとどめつつ,必要十分な曝気を行う手法の確立が今後の課題である。
(キーワード:酪農,排水処理,窒素低減,硫黄脱窒,パーライト)
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畜産廃水中窒素の低減のためのアナモックス反応の利用
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    和木 美代子
 畜産廃水は有機物炭素/窒素バランスが低いことから,従来の汚水の窒素除去手法である硝化・脱窒反応では十分な窒素除去が困難である。アナモックス反応は亜硝酸とアンモニアより窒素ガスを発生させる微生物による新規窒素除去反応である。この反応は窒素除去に有機炭素を必要としないことから,有機炭素/窒素バランスの低い畜産廃水の窒素除去に効果的に利用できると考えられる。本稿はアナモックス処理を,窒素の残存する畜産廃水の活性汚泥処理水に適用するための基礎的研究の結果について紹介する。
(キーワード:アナモックス,窒素除去,活性汚泥)
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