Vol.2 No.9
【特 集】 DNAマーカー育種のこれまでと今後の展望


DNAマーカーを用いた水稲品種開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所    安東 郁男
 イネのDNAマーカー選抜育種では,全染色体をカバーする多数のDNAマーカーと育種素材が整備され,重要な形質のDNAマーカー開発と品種育成が進められている。縞葉枯病,いもち病,良食味のマーカーを活用して育成された品種にはすでに広く普及しているものもある。さらに最近では,低カドミウム性,高温登熟性,収量性などでも重要な遺伝子が見つかり,複数の複雑形質をターゲットにしたマーカー育種も展開されている。今後,さらに高度なDNAマーカー育種技術の開発,画期的形質の品種育成が期待される。
(キーワード:イネ,DNAマーカー,マッピング,育種,MAS)
←Vol.2インデックスページに戻る

コムギにおけるDNAマーカー開発と育種への応用
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所    小田 俊介
 日本のコムギ育種においてDNAマーカー選抜は定着してきており,特に品質関連形質での利用は急速に進んでいる。そこで,過去10年のDNAマーカーの開発状況を振り返りながら,具体的な育種事業でのDNAマーカー利用と育成された品種についての現状を述べる。また,今後はコムギ粉色相と製粉性,タンパク質含量,収量性などの形質のDNAマーカー開発が必要であることについても述べる。
(キーワード:コムギ,DNAマーカー,事業育種)
←Vol.2インデックスページに戻る

DNAマーカー育種による大豆品種開発の現状と課題
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所    羽鹿 牧太
 国産大豆の生産性の低さや不安定性を解消するために,近年飛躍的に進歩したDNAマーカー選抜技術を用いた新たな品種開発が行われている。特にマーカー選抜と戻し交雑を組み合わせて欠点のみを改善できるピンポイント改良により,病虫害抵抗性や難裂莢性を付与した新品種・有望系統が次々に育成されている。一方で,マーカー選抜は従来の大豆育種に全面的に採用されるまでには至っておらず,育成されたピンポイント改良品種も普及が進まないなどの問題点を抱えている。こうした大豆におけるDNAマーカーを用いた品種開発とその課題について紹介する。
(キーワード:大豆,DNAマーカー選抜,ピンポイント改良,品種育成)
←Vol.2インデックスページに戻る

果樹類におけるDNAマーカー開発と育種への展開
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所    山本 俊哉
 果樹類では,世代のサイクルが長く,また樹体が大きく広い栽培面積を必要とすることから,DNAマーカー選抜育種の効果が大きい。ニホンナシでは,黒星病抵抗性,黒斑病抵抗性と自家和合性に関連するDNAマーカーを活用し,従来育種と比較して約4倍程度の育種規模拡大を実現している。リンゴ,カンキツ,ブドウなどの主要果樹類における病害抵抗性,安定生産や省力化,果実特性などに関連するDNAマーカー開発と育種での利用についてまとめた。さらに様々な遺伝子が関与するため,従来のDNAマーカーでは選抜が困難であった果実形質を効率良く選抜するための先進的な試みについて概説した。
(キーワード:果実形質,黒星病抵抗性,ゲノミックセレクション,DNAマーカー,ニホンナシ)
←Vol.2インデックスページに戻る

アブラナ科野菜におけるDNAマーカーの開発の現状と育種への応用
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所    松元 哲
 アブラナ科野菜の育種に利用可能なDNAマーカーはこれまで主にQTL解析を通じて開発されてきた。遺伝子座により近傍のマーカーや詳細連鎖地図の作成にはシロイヌナズナのゲノムとの相同性比較や複数の連鎖地図情報が有用であったが,Brassica rapaのゲノム情報が利用可能となりマーカーの開発は効率的になった。ハクサイでは根こぶ病抵抗性に関する解析が進み,キャベツでは主要病害に対する抵抗性遺伝子座の報告があり,これらの情報は選抜の効率性と正確性につながることが期待されている。ハクサイ中間母本農6号の有する晩抽性は,関与するQTLが少なくても4個ある。これらの遺伝子を集積することにより晩抽性程度の高い個体の選抜が実証された。
(キーワード:ハクサイ,キャベツ,DNAマーカー,根こぶ病,晩抽性)
←Vol.2インデックスページに戻る

DNAマーカー育種によるブランド豚肉の作出
(独)農業生物資源研究所 農業生物先端ゲノム研究センター    美川 智
 日本の養豚を取り巻く環境は厳しく,低価格な輸入豚肉に対抗しうる国産豚肉の生産が大きな課題となっている。肉質の向上が一つの方向性であるが,それも簡単なものでなく,新たな技術開発が求められている。われわれは,肉質の向上を目的に,ゲノム情報を活用した育種に取り組んでいる。遺伝解析により単離されたブタの肉質に関する有用ゲノム領域のうち,「肉のやわらかさ」,「肉色」,「肉の保水性」,「脂肪の脂肪酸組成」,「筋肉内脂肪割合」については,実際にDNAマーカー育種が実施され,肉質に特徴のある3つのブランド豚肉が作出されている。
(キーワード:ブランド豚肉,肉のやわらかさ,肉色,保水性,脂肪酸組成,筋肉内脂肪割合)
←Vol.2インデックスページに戻る