Vol.3 No.9
【特 集】 東京電力福島第一原発事故による農林地および農産物の放射能汚染の現状と対策


福島第一原発事故後の作物と農地土壌の汚染実態
元 農業環境技術研究所    谷山 一郎
 福島第一原発事故後の作物および土壌の放射性物質による汚染の分布と推移が明らかにされた。福島第一原発からの放射性物質の放出量・時期,風向や降雨時期など気象条件および地形の影響によって,放射性物質の沈着量はモザイク状の複雑な分布を示した。作物の汚染は,事故当初は大気からの直接汚染によるものであったが,事故後に播種・移植した作物では土壌からの経根吸収による間接汚染が主な原因であった。土壌の放射性物質濃度は,物理的減衰,ウェザリングや除染などによって時間とともに減少している。
(キーワード:福島第一原発事故,放射性セシウム,作物,土壌)
←Vol.3インデックスページに戻る

福島県の作物汚染の現状と要因解析
福島県農業総合センター    佐藤 睦人・吉岡 邦雄
 東京電力福島第一原子力発電所の事故により,福島県内の農作物が放射性物質に汚染され,食品の暫定規制値および基準値を超過する事案が生じた。そこで,農作物の放射性物質汚染の要因解析と対策技術の開発を行ったところ,カリウムが放射性セシウムの経根吸収を強く抑制することが明らかとなった。カリ施肥や各種除染を福島県内で実施した成果により,2015年7月現在,農作物の食品衛生法に基づく食品中の放射性物質に関する基準値を超過する福島県産の農産物はほとんどない状況となっている。
(キーワード:農作物,汚染,放射性セシウム,要因解析,吸収抑制対策)
←Vol.3インデックスページに戻る

福島県における果樹放射能汚染の現状と対策
福島県農業総合センター 果樹研究所     佐藤 守
 東京電力福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性Csの樹園地における汚染状況を調査した。調査は福島市,伊達市および桑折町の経済栽培果樹園を含む18ほ場7樹種で行った。発芽前の休眠期に汚染された落葉果樹では樹皮に沈着した放射性Csが果実への移行源であることを明らかにした。また,落葉果樹の果実中放射性Cs濃度は汚染後3年目で1/10まで低下したが,常緑果樹のユズでは1/5にとどまった。汚染対策としては樹皮の高圧洗浄処理が樹皮上の放射性Csの除去に効果的であったが,果実中放射性Cs濃度に対する低減効果は処理時期および樹種により異なった。カキでは処理後複数年で濃度の低減効果が認められた。
(キーワード:放射性Cs,休眠期汚染,経年減衰効果,樹皮洗浄,落葉果樹,ユズ)
←Vol.3インデックスページに戻る

草地・飼料畑における放射性セシウムによる汚染とその対策
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    原田 久富美
 永年草地の放射性セシウム汚染に対して,耕起,施肥,播種を行う草地更新は,牧草の放射性セシウム濃度の低減に有効である。特に丁寧に耕起を行い,放射性セシウムに汚染された草地表層のリター・ルートマット層と土壌をよく攪拌して,放射性セシウムが土壌に吸着しやすくするとともに,交換性カリの目標値を土壌100g当たり30〜40mgを含むようにカリ肥料を施肥することが,除染のための草地更新の要点である。一方,単年生飼料作物では,作付けごとに耕起されることに加え,継続的な堆肥の施用に伴いカリ成分が投入されることにより,放射性セシウム濃度が低くなる場合が多いと考えられる。
(キーワード:カリ施肥,耕起,畦畔草,飼料用トウモロコシ,堆肥,牧草)
←Vol.3インデックスページに戻る

農産物への放射性セシウムの移行抑制対策
農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター 農業放射線研究センター
    信濃 卓郎
 2011年3月11日に起こった東日本大震災とそれに引き続く津波によって被災した東京電力福島第一原子力発電所の事故は,福島県を中心として東日本の広大な農地を放射性物質で汚染した。汚染程度によって異なる除染対策がとられたが,営農再開にあたっては主にカリウム施肥による土壌中の交換性カリ濃度を十分に高める対策が有効であることが示された。ただし,種間の違いがあることや,土壌からの移行以外の要因にもいまだに留意をするべきである事例が発生した。また,除染のみが先行して営農再開が続かないために,除染後農地の管理をいかに効率的に行うのかも重要な課題となっている。
(キーワード:東京電力福島第一原子力発電所,東日本大震災,除染,移行低減)
←Vol.3インデックスページに戻る

農地の除染対策について
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所     
石田 聡・白旗 克志・土原 健雄・吉本 周平
 東京電力福島第一原子力発電所の事故により汚染された農地の除染については,除染後の営農再開という観点から,作物の根域に放射性物質をなるべく残存させないことが,空間線量率の低減とともに求められる。農林水産省では,原発事故直後から農地の除染対策に取り組み,表土削り取り,水による土壌攪拌・除去,反転耕などの技術を開発してきた。本稿では除染技術の開発内容,工法の特徴,除染効果などについて概説する。
(キーワード:放射性Cs,農地土壌,吸着,粘土,物理的除染)
←Vol.3インデックスページに戻る

食品の加工・調理における放射性セシウムの除去
農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所     八戸 真弓・濱松 潮香
 食品に含まれる放射性物質は加工・調理によりその濃度や量が変化する。日本人が摂取する食品中で最も摂取量の多い品目である穀類のうち,玄米,小麦,大豆について加工・調理過程での放射性セシウム(137Csと134Cs)の動態解析を行った。玄米や小麦では,糠やふすまの放射性セシウム濃度が胚乳よりも高く,搗精や製粉により放射性セシウムが除去され,精米や小麦粉の放射性セシウム濃度は,加工前の玄米や小 麦玄麦よりも低下する。また,炊飯調理やうどん茹で調理でも,研ぎ水や茹で湯への移行により放射性セシウムが除去され,炊飯米やうどん茹で麺の放射性セシウム濃度は調理前より低下する。大豆の場合も豆腐,納 豆,煮豆,味噌に加工・調理すると,おからの分取や,蒸煮中の排水や煮汁への移行により放射性セシウムが除去され,豆腐,納豆,煮豆,味噌の放射性セシウム濃度は原料大豆よりも低下する。
(キーワード:食品,加工,調理,放射性セシウム)
←Vol.3インデックスページに戻る

森林と林産物の放射能汚染の現状と今後の課題
森林総合研究所    高橋 正通
 森林の除染は生活圏周辺の林縁部に限られるので,水源林や木材,きのこなどの汚染が心配されている。森林内の放射性セシウムの分布を調べると,事故当初は樹木や落葉に多く分布していたが,現在は土壌表層に集中して分布し,また,森林全体のセシウム蓄積量は減っていない。森林を水源とする渓流水の放射性セシウム濃度は通常検出限界以下であり,大雨の増水時に一時的に濃度が上昇するものの,年間流出量は微量である。林産物では,建築用材などに利用される木材のセシウム濃度は低い。しかし,シイタケなどのきのこ類はセシウムが移行しやすく,きのこ栽培用のほだ木の汚染問題も解決していない。除染の進まない森林の管理と林産物の安全性検証が課題である。
(キーワード:放射性セシウム,きのこ,木材,渓流水,森林管理,福島第一原子力発電所事故)
←Vol.3インデックスページに戻る