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第18回

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チャバネゴキブリ
クロゴキブリ
日本の代表的な屋内性の外来ゴキブリ
(上)チャバネゴキブリ:淡褐色の小型種−ビルや飲食店に多い
(下)クロゴキブリ:黒色の大型種−一般民家に多い


薬用チュウゴクゴキブリ
中国の薬用チュウゴクゴキブリ
雲南省大理市の漢方薬店で購入(1998年)

食用・薬用としてのゴキブリ類



 ゴキブリ類の起源は石炭紀にさかのぼり、新参の人類とのつき合いはまだ短い期間にすぎません。しかし、 一部の種類は野外から屋内への進出に成功し、近代の交通機関と暖房の発達で世界的な“おじゃま虫”になりました。

 ゴキブリ類は雑食性で腐敗食品まで食べて不潔ですが、それも実情は“洗わない手”と大差がなく、 人間の食物を盗むといっても量はたかが知れています。それにしては日本人、とりわけ主婦のゴキブリ嫌いは度を越しています。 しかも嫌われる最大の理由は、その姿や形が気持ち悪いという、あいまいで身勝手な点にあるようです。

 今回はゴキブリ類を食べる話ですが、この連載は新たな食料資源の模索がテーマで、悪食の紹介ではない点をお含みおきください。

 ゴキブリ類は無毒で味も良いと、百年ほど前までは世界各地で食べていました。畏友・小西正泰氏の調査から一部を紹介します。

 ……ロンドンではゴキブリのペーストをパンに塗って食べていた。イギリスの船員は船の中でゴキブリを捕らえ、 生で食べた(小エビのような味という)。タイの少数民族の子供たちはゴキブリの卵鞘を集めてフライにして好んで食べる。 中国南部では古くからゴキブリを食べていた……などなど。

 さらに薬用となると、真偽はともかく効用は万病に及びます。

 ……ゴキブリとナメクジとブタの胆汁を混ぜて梅毒に(中国)、ゴキブリ煎茶が破傷風に(アメリカ)、ゴキブリ酒が風邪に (ペルー)、黒焼きが寝小便、つぶして霜焼け軟膏に(日本)等。しかも、これらはすべて迷信ともいいきれません。 ヨーロッパでは昔、チャバネゴキブリで作った心臓薬が広く市販され、その有効成分には腎臓の分泌機能を活性化させる作用があることが分かっています。 また、中国では野生のチュウゴクゴキブリが血管拡大の特効薬として、乾燥品や生品が現在もさかんに売られています。

 欧米人はホタルや鳴く虫に無関心ですが、ゴキブリなどへの嫌悪感も希薄です。ゴキブリを家の守護神として引っ越しの時に何匹か連れていったり (英国)、熱帯の特大のオオゴキブリをペットに飼ったり(アメリカ)する例もあります。あるいは、 身近な生き物に無関心ではいられない日本人の特性から、そのゴキブリ嫌いと鳴く虫を愛する感性は同根かも知れません。 試食までは薦めませんが、せめて日本人はこの生物界の大先輩に、もう少し寛容になれないものでしょうか。