ホーム > 読み物コーナー > 虫の雑学 > 抵抗性

抵抗性

 戦後初めて登場した有機化学合成農薬(殺虫剤)は、幾多の変遷を経て今日なおも害虫防除の中心的役割を担っている。この間、有力な害虫を制圧してきた半面、 天敵相とのバランスを崩し、問題にならなかった弱小害虫を大害虫に変ぼうさせるなど、農薬の変化は常に害虫の顔ぶれも変えてきた。ここでは、この両者の関係のうち、 農薬の死命を制するかもしれない害虫の抵抗性の発達に触れておきたい。

 農薬を連用すると、どんな害虫も必ず抵抗性を発達させて殺虫効果が著しく低下する。現在、そのメカニズムが多角的に研究されているが、それを超えるような農薬はまだ一つもない。 あらゆる害虫が歴史上見たこともないこのような化学物質に対し、たやすく抵抗力を発達させる能力を持っていたことは驚異である。対抗策としての別の成分の新農薬の開発は、 それに要する年月と巨費に加え、極度に安全性が問われる今日、そのスピードも鈍化し、防除が困難な害虫の続出をまねいている。

 農薬と害虫の“いたちごっこ”は、不毛の行く先が見え始めている。全く別の代替戦略の組み立てが世界的にも指向されつつあるものの、さし当たっては、 昨今の無農薬キャンペーンとは別に、使える農薬がなくなる恐れの方が深刻である。まさに害虫はヤワな相手ではないのである。

[朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.2.21)]



もくじ  前 へ  次 へ