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木製色ガラス装飾の虫

(タ イ)

 タイには、金箔を貼り色ガラスの破片をちりばめた絢爛豪華な寺院が多い。これは過去の様式を近世に集成した”バンコク美術様式”といい、 木彫品や細工物にもこの手法が用いられている。そのひとつにデパート等でよく見かけるチョウがあるが、それはぼくでさえ素通りするほど安っぽい。 対してこのカマキリとセミは、1994年の夏、チェンマイの骨董品で採集したもので、実物と掛け離れた造形ながら、古色も付いてそれなりの味がある。 全体に朱色の顔料を塗り、見える部分だけ金色塗装と色ガラス片で仕上げてある。木部の細工や針金の脚は極端に粗雑なのに、ガラスの加工はすべて手作業という、 ちぐはぐな手間をかけてある。製作年代は不明だがそう古いものではない。商品としては一般性のあるチョウに蹴落とされた敗残のオブジェで、 売れずにホコリにまみれた結果の古色ともいえる。たまたまぼくに会わなければ、ただ朽ち果てる運命にあったに違いない。体長はカマキリ31cm、セミ21cm。 カマキリには脚が8本あるが、作者にとってカマは手で、6本の脚とは別の印象だったのであろう。



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