Vol.7 No.8
【特 集】 農業・食品分野におけるバイオテクノロジーの将来展望


我が国のバイオテクノロジーの行方
公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会 会長
    荒蒔 康一郎
 バイオテクノロジーは,人類が誕生して以来永らくその介在メカニズムが認識されることなく,発酵食品等に活用されてきたが,前世紀に入り飛躍的な発展を遂げることになる。その契機は1953年のDNAの二重らせん構造解明であり,その後の遺伝子組換え技術の確立につながっていく。演者はキリンビール株式会社在籍時代,造血因子製剤の創出に携わったが,これも遺伝子組換え技術の賜物である。近年の我が国の動向に目をやると,2004年にイネゲノム塩基配列の完全解読がなされて以来ゲノム研究が急速に進み,ゲノム編集技術が登場するに至った。一方海外諸国ではバイオエコノミーという新たな概念に基づく戦略がすでに示されているが,我が国においてもバイオの国家ビジョン策定への産業界の要請が高まってきており,JATAFFとしても自らの強みを生かしてバイオテクノロジーの発展に貢献することが求められる。
(キーワード:バイオテクノロジー,遺伝子組換え,イネゲノム,ゲノム編集,バイオエコノミー)
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植物育種の歴史とゲノム編集等新しい育種技術について
筑波大学生命環境系 教授    大澤 良
 わが国におけるゲノム編集により改良された作物品種の社会的実用化はトマトをはじめとして目前となっている。わが国は世界的にも本技術を利用した育種の先頭に立っている。本特集では「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術(内閣府)」において推進されてきたゲノム編集技術利用による育種の現状,また,これに関わる規制の動向などを併せて紹介する。しかしながら,一般には,バイオ技術の倫理的課題あるいはリスク評価が強調され,バイオ技術が使われる場面についての議論が乏しいことが多いことから,本講演ではゲノム編集技術に焦点を当てるが,作物生産に対するバイオ技術全般の価値について,「育種」をキーワードとして議論を進める。
(キーワード:作物育種,突然変異育種,ゲノム編集,規制科学)
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SDGsの達成に貢献するバイオエコノミー
−海外動向を中心として−
日本バイオ産業人会議事務局 次長     坂元 雄二
 ドイツは,今夏,国家としてのバイオエコノミー戦略を改定・統合するとともに,産業のバイオ化を推進するBio Agendaを策定しようとしている。欧州が2018年に改定したバイオエコノミー戦略では,「持続可能なサーキュラーバイオエコノミー」により,産業振興と課題解決を両立しつつ,SDGsやパリ協定の目標にコミットすることを目指している。両戦略では,「農林水産業」がバイオエコノミーの重要な基点として位置づけられ,バイオエコノミーを推進するために,国民を含む全てのステークホルダーが共通の目標を共有し,社会全体でトランスフォーメーションを起こすことを目指している。これらの先行事例は,わが国における「農林水産業」や「バイオ(またはバイオエコノミー)」に関する施策の立案や,その官民や省庁間の連携による推進において参考となる。
(キーワード:バイオエコノミー,SDGs,EU,Bio Agenda)
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政府のバイオ戦略について
内閣府大臣官房 審議官(科学技術・イノベーション担当)
     松尾 浩道
 科学技術基本法,科学技術基本計画,統合イノベーション戦略を骨格としたわが国における科学技術イノベーション政策の全体像およびその推進体制を概説する。また,科学技術イノベーション政策において強化すべき分野として位置付けているバイオテクノロジーについて,その戦略の検討の背景と課題,検討の方向性,主な検討内容,検討体制等を紹介する。
(キーワード:バイオ戦略,科学技術基本計画,統合イノベーション戦略,Society5.0,SIP)
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農林水産研究イノベーション戦略
前農林水産省技術総括審議官 兼 農林水産技術会議事務局長
     別所 智博
 わが国は,人口減少と高齢化社会が進む中で,食と健康に対する関心が高まっている。これらのニーズを踏まえ,現在の農林水産研究が,これまでの伝統的な農林水産研究に止まらず,関連産業や他分野との連携を進めイノベーションが期待できる分野を対象に「農林水産研究イノベーション戦略」を策定した。本講演では,実現を目指す農林水産業・関連産業の姿と対応方向について,食,スマートフードチェーン,育種,バイオ素材・バイオマスの4分野の研究開発の方向とプラットフォーム型のエコシステム及び研究開発環境の整備について紹介する。
(キーワード:イノベーション,食と健康,スマートフードチェーン,スマート育種,バイオ素材・バイオマス)
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農業分野における革新的バイオ技術について
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 副理事長
    中谷 誠
 農業分野におけるバイオテクノロジーの進展について,農研機構の取り組みを中心に紹介する。イネゲノム完全解読後,イネの重要遺伝子解明等が進展しており,DNAマーカー育種については,すでに育種の実践段階に入っている。その他の作物や家畜でも,類似の取り組みが進展している。一方,品種育成者権保護の観点からのバイオテクノロジー活用が喫緊の課題になっており,ブドウやカンキツで取り組みを先行させている。昆虫バイテクの分野では,組換えカイコ等を活用した新規高機能素材の開発が進んでいる。今後は,進展著しいゲノム編集技術や高速シークエンサー等と人工知能等のデジタル技術の融合を図り,政府が掲げるSociety5.0の農業・食品版の早期実現を図っていく。
(キーワード:DNAマーカー,Society5.0,育成者権保護,人工知能,スマート育種)
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新たなバイオ技術に対する産業化の期待と取り組みについて
住友化学株式会社 代表取締役副社長執行役員    西本 麗
 今後数十年で予測されている世界の人口増加や気候変動に対応するために,農作物の生産効率を上げていくことが世界的な課題である。農薬産業においては,1990年代以降,バイオテクノロジー技術を用いた遺伝子組換え種子の開発・普及が進み,業界売上額の大きな部分を占めるようになってきている。また,近年はゲノム編集やRNAi技術などの新たなバイオ技術を農業分野に応用する研究開発が進んでいる。本講演では,このような農薬産業の世界的動向を踏まえた上で,当該産業界における新たなバイオ技術の導入・活用事例について概説する。
(キーワード:GM種子,ゲノム編集,RNAi,作物育種)
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